三楽日記

不特定多数よりも、特定の誰かのために書く方が、
良いに決まってるだろう。きっとそうなんだろう。
 
手術当日。
代休を取って、午前も一桁台で起床して、
まるでそれが習慣でもあるかのように準備をした。
 
病院へ着き、病室をのぞいてみれば、
既に違う患者さんがベッドに横たわっていた。
 
談話室へ入ると、暇疲れのような表情の母と妹が座っていた。
父はさずがに緊張していたらしい。
その場でだらだら話をしていたら、叔母が見舞いに来た。
さらには母の友人というよりも、自分にとっては親戚のような、
おばさんも見舞いに来てくれた。
 
おばさんが差入れしてくれたおにぎりやホタテのフライなどを広げ、
昼飯にした。
朝はあまり食べる気がしなかったので、
すっかり腹も空いていて、しっかり食べる。
たくさんの漬物に、高菜巻きだったか?珍しい握り飯。
柏餅もあって、白いみそあんのをひとつ。
なんでも有名な店のものだったそうだが、名前は忘れた...。
叔母の差入れの東京あずきグラッセ"薄露"とやらも、
なかなか美味しかった。
残った分は、自分が引き受け持ち帰ることになった。
 
9時から始まった手術は、予定では、12時半頃終わる予定だったのが、
なかなか看護士さんが呼びにこない。
流石に、一時間くらい過ぎた頃には不安な空気が広がり始めていたけれど、
ようやく戻って来たとの報せが来た。
ただし、今日は麻酔と痛み止めで殆ど目を覚ますことはないだろうという話をされて、
ちょっとがっかり...やはり手術は手術。術後も含めていろいろとあるのだ。
ちょっとベッドを覗いてみると、酸素吸入器を付けて、
体からは管だらけの父が、鼾をかいて眠っていた。
その光景はさすがに、胸に来るものがあった。
見た目だけなら、とても痛々しいから。
その後、担当医師から手術等の説明があって、
まるで無事成功したのは当たり前のように話を進められたが、
随分ひどくなっていたことを聞かされ、もっと早くした方がよかった云々...。
この先神経の快復の良し悪しは本人のリハビリ次第ということで、
すっかり運動に縁が無くなっている父が果たして気を入れ替えて、
歩くなり足を動かしたりするだろうかが、すこし不安。
それでも今回の件で流石に懲りたろうから、やらざるを得まい。
 
再びベッドに戻ると、看護士さんが付いていろいろと世話してくれていた。
しかし、殆ど寝惚けているらしく、返事をしたりしなかったり。
それを見ていた母が、やぁねぇ〜と笑った。
その様子を見届けて、すこしホッとした。
 
夕方まで、すこし御茶ノ水をぶらついてこようと、妹と外出。
病院の近くのスタバで、新発売のバナナクリームフラペチーノを飲む。
これは...たぶん、もう飲むことはないだろう。
ジャニス2を素見して、三省堂近くの画材等を置いている店へ向かった。
何度も近くを通っているのに、一階をちらちら覗くだけに留まっていたその店は、
文房堂*1という名で、階上にはギャラリーも併設していた。
それにしても、なかなか面白い物がたくさんあったなぁ。
ネフ社*2の積み木なども置いてあり、驚き。
特に、川口喜久雄「シルエット工場」*3ってのは、想わず買って帰りたくなったほどで、
映画のワンシーンのようなクラシックな素材に紛れた
宮澤賢治が個人的にはドツボだったなぁ(笑)
二階には絵はがきがたくさん並んでいて、
山口マオコーナーあり、他多数、観ているだけで楽しい。
妹は、嬉々としながら手ぬぐいを購入していた。
さらに友人へのプレゼントにと選んでいた遊印の中から、
自分の名前を見つけておまけにと買ってくれた。
 
それから、妹がジャニス*4で借りたいというので、久々に寄ってみた。
そこで嬉しい新譜発見。近日中に購入を決める。
英語で『日曜日の服』ってタイトルも素敵だもんなぁ。
たしか火事かなにかで一時閉店していたジャニス3が一階下で臨時営業していた。
ジャニスって前にあった店舗でもボヤ騒ぎあって、
CDがたくさん煤けちゃってセール品にせざるを得なくて大変だったもんなぁ。
なにかに憑かれてるんでしょうか...?
さらっと棚に目を通してみる。
自分では短いつもりでも他人にはけっこう長く感じるものなんですよ...
夢中になってしまうと、空返事になったりしてね〜失敗したこともあったっけ。
 
その後だったか前だったか忘れたけれど、
神田伯刺西爾でCoffee&Cakeを頂く。
ブレンドに、マロンケーキが売り切れでレアチーズケーキを。
さっき飲んだばかりなのに、しっかり入る。美味いんだもの。
妹は珈琲だけ、ここで一度抜くことが後々大きいんだとか...。
 
夕方まだ明るい5時近くに病院へ戻った。
今日はしょうがないかぁ...ということで、
妹の提案で、紙に皆で一言ずつ書き置きをして帰ることにした。
ベッドを覗いてみると、掛け布団が捲れていた。
妹がせっかくだからデジカメで撮っておいてあげますかと、
先ほど仰向けだったのを横に向かせてもらった前側に寄ると、
父がぼんやりながら、目を覚ました。
撮っとく?と聞けば、大きく頷いた。
それぞれの声かけにもしっかり頷いていて、大丈夫そうだ。
よかったよかった。
それでも、麻酔と痛み止めが抜けた後はしばらくかなり痛いんだとか。
この先は長い長いリハビリが待っている。
それでもまぁ、おつかれさまでした。
 
昼飯を食べた後、妹が仕事の打ち合わせだとかで一時抜けて、
母と叔母もトイレに向かって、田舎のおばさんと二人になった時、
これからのことについて、少し話をした。
それがなんだかとても重要な話だったような気がして、
帰り道は、そのことを憶い返していた。
静かな焦燥感と、奥深くから這い上がろうとする...
夢だか希望だか、なにかしらの明るいもの。
それに付随して気づかされた不安。
杞憂に終わるだろうけれど、それはとても大きくて、
一度浮かんでしまうと、なかなか忘れることはできやしない。
そうだ。
いつだって隅の隅の隅っこだけれど、
どんなに清々しく心地好い時であっても、
必ずこちらを覗いている。
それはたぶん一生自分に付きまとって、
消えることはないのかもしれない。