集合の18時に仕事を終えて、雑事をかたづけて、
そわそわしながらいつもと同じ帰路を辿る。
変わらぬ帰り道に浮足立っていた理由は、
高校の陸上部の数名で飲み会があるからだった。
しかも、その近辺に住む人間しか集まらない話だったし、
同級で声のかかったもうひとりは用事があり、21時頃に着くというから、
自分以外は皆、先輩なのだ。
駅に着いて、集う店を聞けば、
昔、妹がバイトをしていたスパゲティ屋の下...!
私の記憶が確かならば...そこは、違う飲み屋だったように憶うが、
見慣れた道を、そそくさと早歩きで着いてみれば、
いつのまにか、ある先輩の名字を採った店になっていた!
へぇ〜...と、驚いたまま、店を開けると、
座敷から懐かしい女性の先輩の顔がのぞけた。
一年上の先輩同士で結婚したという話を聞いたときは、
とても嬉しい気持になったものだけど、
同じ地域に住んでいるとはいえ、出不精かつ付き合いの悪い自分は、
すっかりご無沙汰してしまった。
その月日の間に女の子一人と双子の男の子のパパとママになっていた。
その三匹の怪獣は、処狭しとしっかり暴れ回り、
さすがに先輩夫婦も苦笑いしていた。
かわいいけれど、大変そうだなぁ...でもかわいいなぁ。
子供は、自分に似なければ、かわいいものだろうと常日頃想うけれど、
男も女も、良くも悪くも、子供が出来ると変わるものだと目耳にすることが少なくない。
自分もいつしかそんな時が来るのだろうか。
挨拶を一通りして、顔を見回すと、皆さんお変わりないようだった(笑)
そう口に出すと、しっかりおまえもな〜と返ってきた。
もう十年以上経っていて、それなりにいろいろあるだろうに、表には出てこない。
それは良いことかもしれない...と気分も上々に、
眼前に湯気を立てて広がる鍋やら、豪華な刺身やらを頂く。
最初は遠慮しがちだったけれど、なかなか腹が空いていたのでしっかり喰った。
体育会系といえども、ウチの部は上下関係が厳しくなくて、
フレンドリーな関係にあったから、今でもこうして気楽に飲めるのだ。
さっそく想い出話に花が咲いた。
過去の様々がフラッシュバック。
なぜか不思議と悪いことが浮かんでこない。
僕等の学年は比較的人数が多いこともあり、女子の数が多いこともあり...
皆で集まることなんて、卒業してからは一度もなかったけれど、
いまさらだし...いまならもう、
集って駄弁って飲み喰いするくらいはできるかもなぁと憶った。
それにしても、築地に勤めている先輩の力添えがあるのかないのか、
親御さんが開いたというこの店の料理の美味しいこと。
調子に乗って、後から来る同級のことを考えずに先輩と食べ尽くしてしまった。
これからは親が上京した時にでも行きつけにしたいものだ。
遅れて着いた同級は、相変わらずのテンションと振舞で懐かしくも安心させてくれた。
今は、文具卸の営業?をしているというが、営業向きだよなぁとは前から感じていた。
社会人として、ついていけない話題もあり、
自分の世間知らずさが身に滲みることもあったけれど、
気軽にまた集まれそうだし、料理も美味いし、好い夜だった。
結局、23時くらいにお開き。歩いて帰れる距離の店はとてもありがたい。
 
一対一にしろ、多勢にしろ、「人と話すこと」とは、
生きていく上では、本を読むよりも大切なことであるのは必然なのだ。
そういうあたりまえのことを、あたりまえとして捉えられずに、
億劫になってしまったのは、いつからだったろうか。
こうやって深く考えてしまうようになってしまったのも...。
過去によく、「考え過ぎだよ」と声ををかけられた時期があったけれど、
違った..考え過ぎどころか、考えずに逃げていただけだったのだ。
向かい合わなかっただけ、その声に耳を澄ませなかっただけ、
めんどうくさかっただけ、かったるかっただけ、
傷つきたくなかっただけ...?
いつもいつも、たくさんの人に逢うと、
その後はなかなか自分というものが息苦しくなるものだけど、
この日はそれなりに飲んでほろ酔い、どうでもよくなっていたので、
明日も仕事だし...と、眠気に任せて、
また逃げてやった。
 
 
咲くかな まだかな
鳴るかな まだかな
咲くかな まだかな
           ゆらゆら帝国 「待ち人」
 
ゆらゆら帝国 III
 
とっくに諦めたつもりでも、なかなかやりきれない。
僕はなにかを待っているのだろうか。