ぬるーい地獄の歩き方 (文春文庫)
 
昨夜の食べ過ぎが響いたのか、
夕方の休憩時に、軽食を摂った後しばらくして、
腹が急激に膨れて、咳をするだけでも激痛が走るようになってしまった。
どうする?どうするんだよ?と流石に焦りながら、
あぁほんとうについてない今年はろくなことがない...などと、
店の小汚いトイレでしばらくなにをするでもなく呻いていた。
盲腸か?便秘か?と過ったけれど、腹は応えてはくれない...。
とにかくこの異常な膨らみをどうにかせねばと、
文字通りに必死にあらゆることを試してみた。
溜まっているのかもしれないガス抜きのために、
腹を擦り、小さく跳ねてみたり、呻くのを歌ってみたり、腿上げをしてみたり...。
ある程度してそれなりに慣れてきたが、
それでもパンツのホックは締まらぬままエプロンで隠して、
顔を歪めながら声が裏返りながらレジに立ち、
時々隠れては腹筋を動かしまた跳ねてみたりなどして、
苦労の甲斐があったのか、少しずつガスも抜け、
徐々にその奇妙な膨らみもへこみ元に戻っていった。
いったいなんだったのか...。
"ぬるい地獄"とはまさにこのようなことではないかと痛感して、
自分という人間がすごく虚しいもののように想えた。
 
その晩は腹は減っていたのだけれど、
自分には珍しく食欲よりも先ほどの面倒に気が塞がれて、
先に母より届けられたせっかくのシチューも準備までしながら、
取りあえず明朝まで様子をみることにした。
あぁ...年明けて半月...なんだか雲行きが怪しい日々だ。