ゆれる [DVD]
昨夜、風邪ひきのぼぉっとした頭で観ても眠気に誘われることなど一切無く、
むしろもう一度観たくなるほどの、
良い意味で期待を裏切る戦慄のサスペンスであり、
二人の俳優の凄まじい演技に支えられた、
人間の心理を描いた深い作品になっていました。
前作『蛇イチゴ [DVD]』で印象づけられた、
家族のしがらみを想わせる閉塞感か、
懐かしい安息感の象徴としても受けとめられる地方の家屋、
鮮烈な自然の中で光り香ってくるぐらいの緑の世界、
こちらが勝手に西川監督の"しるし"のように位置づけた背景は、
今作でもしっかり出てきました。
ご丁寧にオープニングの軽快なテンポも前作同様で、
なんだか期待に胸膨らませる小粋な演出だなぁと感心してしまいました。
 
うだうだ書くとキリがなさそうなので、
強く印象の残っていることだけを書いていきますが、
まずこの筋書きには、想わず声を上げました。
意外とも想えるほどでしたが、あえて謎解きのような展開にせず、
心理描写を中心にした上で、その側面で事件の事実をあぶり出した形は、
観終えた後で、"サスペンス"という言葉を目にして、
あぁそう言われれば...と感じるほどに、別なところで夢中にさせられていました。
とにかく、オダギリ ジョーと香川照之の演技は、
評判通り鳥肌の立つほど凄まじいものでした。
特に、観た人はおわかりでしょうが、香川さん演じる稔が、
洗濯物をたたみながら背中越しに話すシーンはほんとうにこわかった...。
オダギリさん演じる猛も徐々に不安定さが露になってくるのですが、
細かい演出と合わせた繊細な表情と、飄々と過ごしてきた人間が、
いざ感情を爆発させた時の歪な姿が胸に迫りました。
自分としては、あの地方の閉塞感の煽りをもろに受けた稔に
シンパシーを抱いていたつもりが、
後半、崩れてゆく猛に感情移入してしまい、
むしろ稔はどこか怪物的なほど達観した人間のように写ってしまいましたが、
それもまた覆されてしまうんですね...。
ここらへんは脚本の妙というか、観ている方まで「ゆれる」ような気がしました。
そして、まちがいなく見どころであろう、法廷でのシーンも凄かった。
兄弟はもちろんのこと、検事役のキム兄、ちょっと棒読みなんじゃない...?と、
感じた最初が申し訳ないほど、鬼気迫る演技を観せてもらいました。
兄弟の父役の伊武雅刀と、弁護士でしかも父の弟!蟹江敬三の渋い演技も、
兄弟の心理というテーマの大きさを側面から支える印象深いシーンでした。
七年後のクライマックスは、
「第16回東京スポーツ映画大賞」*1の授賞式での、
ビートたけし審査委員長の「8mmフィルムのところがおしい。そこだけだな。〜」
というコメントが、ずっと残ってしまっていてどういうことなんだろう...?と、
こちらも斜に観てしまったせいかもしれませんが、
ちょっとベタかなぁ...と物足りなさが残ったのが正直なところでした。
このシーンで、下世話な言い方をすればネタばらしがあり、
猛が一度は自ら壊してしまった兄弟としての愛情を取り戻すということになるのでしょうが、
それまでの痛々しいほどの緊張感や身に憶えのあるような感情の繊細な描写が、
なんだか呆気なく修復されるのが意外だった気もしたし、
当初、終始重たいんだろうなぁという想い込みがそう感じさせたのかもしれません。
しかし、ラストシーンは素晴らしかった。
観る側に解釈を委ねる形が好かったし、
これ以上すっきりさせられたらなんだか拍子抜けしていたような気もしますし、
なにより、"笑顔"だったというところがせつなくなりました。
Amazonのレビューでも、観た人によって印象が違う作品というコメントが多い気もしましたが、
確かに兄弟がいるかとか、自分の性格、過ごしてきた背景、今現在置かれている立場などで、
受け止め方が異なる気もしますね。
でも、派手な物語でもないこの作品に観入ってしまう人は少なくはないと信じます。
目を離せないよく作られた脚本の力と、素晴らしい俳優の演技があれば、
良い作品ができるんだなぁと、昨年観た『運命じゃない人』と同様に感じられました。
結局、だらだら長くなってしまいました... 性分なんですいません。
重たいけれど、また観たい作品です。