上井草にあるちひろ美術館東京館の茂田井武*1に行ってきました。
昼過ぎに起きて、あれやこれやの雑用を片づけていたら、
結局外出できたのが15時過ぎぐらいになってしまって、
乗り馴れない西武新宿線電車に揺られながら、新鮮な田園風景を眺めながら、
上井草駅に着いたのは16時半近く...。
あやふやなまま携帯に送った地図から見当をつけて向かってはみたけれど、
早々とどうやら道を間違えたらしく、
駅まで戻って素直に交番で道を聞くと、慣れた口調で案内してくれました。
すっかり辺りは暗くなってしまって、畑まで見えてきて不安になりながら
早足で歩いていると、あたたかい橙色の灯が見えてきて、
大きなガラス張りでしっかりと中が確認できる目的地に着きました。
着いた時には閉館まであと20分...。
軽く息を弾ませながら、受付に立つと、
優しい表情のおねえさんが、あと15分ほどですけどよろしいですか?と、
申し訳なさそうに呟きながら応対してくれた。
入場料を割引してくれたのを焦り気味の自分は少し後に気づいて、
ありがとうが言えませんでした。
入口から連なるこじんまりとしたカフェスペースの席は、殆ど埋まっていました。
いわさきちひろの書斎を再現した展示に圧倒されながら、奥にある目的の展示室へ。
音楽がないので、とても静かな室内でしたが、
三人ほど観覧していた女性は皆さんなんだか落ち着いていらして、
のんびりと絵を眺めていました。
僕はといえば、
とにかく観たことのない絵だけでもしっかり観ようと、
ぐるっと廻っては止まったりして、他人からしたら落着きのない客だったかもしれません。
紙面や画面越しで目にしてきた茂田井武の作品群でしたが、
実際、間近に目にすると、細かいタッチはそれこそ子供が描いたような筆致に写って、
それでいてよくあんなに色鮮やかにバランスよく見せられるなぁと驚かされました。
茂田井は好んで童画(文字通り子供が描いた絵)を複写していたという、
驚きの事実も知り、実際にその作品も展示されていましたが、
もうどうやって観ても、子供が描いた絵にしか写りませんでした。
展示されていたなかでも気に入ったのが、小川未明作品集の挿画でした。*2
扉絵に加えて各作品の各頁に話からイメエジされた枠が描かれていて、
なんだか特別な愛着が生まれてきます。
最近はこういう本ってないような気もしますし。
今回まとめられた作品群にはとても統一感があったのですが、
ここに『ton paris』を加えてみると、
色鉛筆や水彩で描かれたパリの風景と心象風景を重ね合わせたような
あの本がいかに異様だったかを感じさせられます。
といっても、どちらも好きなので問題はないのですが(笑)
そして、今まですっかり忘れて過ごしてきた『茂田井武―思い出の名作絵本 (らんぷの本)』が、
とても貴重な資料が満載で絵もたくさん載っていることを知り、
さっそく欲しくなってしまいました。
閉館のアナウンスが流れる頃には、展示室には独りだけになっていて、
感想を綴るノートに目をやれば、小さい子供が書いた落書きのようなものから、
58歳の女性が書いた上手な絵まで、皆さんの感動が詰まっていました。
僕は一言だけ書いて、静かになってきた館内に急かされて、
後髪引かれつつ橙色の館を後にしました。

帰り道は戻り道、すっかり暗くなった通りで、
はっと息をのむような光景に出逢いました。
行きは急いでいてじっくり観れなかったのですが、
通り道にある「栗原」という駄菓子屋さん。
店頭に並ぶのは、タイムスリップしたかのように立派な駄菓子。
色とりどりの駄菓子が整然と並んでいる様が、
茂田井の絵と重なって、ぼんやり眺め立ち尽くしてしまい、
せっせと菓子を物色しているおそらくは近所の子供たちに、
怪訝な目を向けられてしまいました。
写真を一枚!と想ったのですが、携帯しか持っていないので失礼だなと感じ、
また来た時に撮らせてもらえればと、
冷込み厳しい夜の見知らぬ商店街を抜け、
味わいのある西武新宿垂ヘ上井草駅のホームから帰路へ。
久々の私用の遠出だったので、変に緊張したりもしましたが、
やはり、行って観ることができてよかったです。