埋もれていた記憶から...

 
注文の多い料理店 [VHS]
原作 : 宮澤賢治 脚本・演出 : 岡本忠成 監修 : 川本喜八郎

”『おこんじょうるり』などで知られるアニメーション作家、岡本忠成は、
 この作品に魅せられ、五年の歳月をかけて製作を試みたのですが急逝。
 故人の意志を継いで、川本喜八郎が監修にあたり
 残された絵コンテをもとに完成させました。
 全編を通して、絵画を想わせる陰影のある緻密なアニメーションは
 原作の持つ幻想的な世界を最大限に表現しています。”
 
オークションで見つけた一本のビデオ。
そのパッケージの絵を目にして、朧げな記憶が転がり出した。
たしかに見憶えがあるのだけれど、殆どは浮かんでこない。
でも、"感動した"ことはしっかり憶えていた。
他に入札がないことを祈りながら...無事落札。
この日、手元に届いた。
まさか、巨匠同志のこんなあたたかいエピソードがあるとは知らず、
それでも、これは充分に期待に応えてくれるであろうと嬉しくなった。
 
20分ほどの内容は、もちろん強力な原作に沿って進んでゆくのだけれど、
ところどころ、アニメーションを活かす大胆なアレンジが加えられていて、
観ているこちらも息を呑むような展開だった。
この短篇を独特な位置づけにしている特徴として、
まず「無声」であることが挙げられると想う。
山奥での野生の音、犬の鳴き声、風のざわめき...
そのなかで主要としてあるはずの会話は一切ない。
そこがまた、どこからか覗かれているような不気味さを感じさせる。
そして、このアニメーション。
これはまさに期待通りで、背景といい、動画といい、溜息ものの美しさだった。
ノルシュテインや、レイモンド・ブリッグス、フレデリック・バックを想起させる、
芸術的アニメーションの真髄がここにもある。
絵の素朴さを失わずに、アクションシーンやおどろおどろしいシーンも
違和感なく観進めることができた。
特に、アレンジが加えられたシーンでの映像の幻想性は、
岡本忠成の映像作家としての沸き上がったイメエジの力強さが充分伝わってきた。
「無声」を補って余ある、弦の響きもこちらの昂揚感を盛り上げる上で、
とても効果的だった。
最後、「紙くずのようになった二人の顔」を描写しないところなども、
観る側の想像性を試すかのようで、心憎く...でも想わずにんまりさせられました。
 
過去には、スケジュールまで立てたにもかかわらず、
持病の出不精やら忙しさからくる気疲れなど自業自得で見送った、
東京国立近代美術館フィルムセンターでの『日本アニメーション映画史』*1や、
併せて催された「造形作品でみる岡本忠成アニメーションの世界」*2などで、
その美しさに触れる機会はあったのだけれど...。
結局は、毎度のことながら、後悔先に立たず。
観ることが出来る時に、観ておかなくちゃ!ですね。
 
それにしても、ちょっと調べただけなので、確実なことは言えないのだけれど、
岡本忠成にしろ川本喜八郎にしろ、DVDでは作品集などが出ていないようで、
とても残念です。
 
青空文庫 : 宮沢賢治 『注文の多い料理店』