読了

ホテル・アイリス (幻冬舎文庫)
「狂気は個人にあっては稀有なことである。
 しかし、集団、党派、民族、時代においては通例である。」とは、ニーチェの言葉*1
断片的に...。
ここにエロスを求めるのは酷な気もするし、自分が惹かれたのは、
やはりくっきりと描かれた憧憬として映る非日常の光景だった。
まだ一冊も読んでない頃の小川洋子のイメエジは、
まさにこの小説で目眩くまでに展開される、淡々としてどこか冷たさを残しながらも、
読手のなかへ濃く沁み込ませる文学世界。
この作品を極点にして、あらすじだけ眺めてきた他の作品もおそらくは、
どこか終始あたたかな陽射しが感じられる『博士の〜』に比べたら、
このような雰囲気を漂わせているのかもしれない。
しかし、読ませるなぁ。
過激で痛々しい描写も、文章が美しくいちいち切ないほどで、
下世話な気分にずれていかない。小川洋子を崩すことがない(と想う。)
最後に受ける虚無感がスローモーションで絵が広がっていった。
また詳しい地名や地域性を出さないところが、寓話的で好い。
マリを感じ、翻訳家を感じ、不思議と翻訳家の甥には感じ入れなかった。
男性で面白いと想う人は少ないような気がするけど、
鄙びた町の古めかしいホテルへふらふらと旅に逃げてみたい衝動に駆られた...。
結局、それかよ...。