Gabrielle Vincent / Un Jour, Un Chien (1982)

 
想いがけず、id:asukabさんから渡していただいた念願のバトンに、
はにかみながらも(笑)、悩み迷いつつ選んだ一冊です。
自分の様な半端な"絵本好き"が選ぶのは申し訳ないくらい、
多くの人々から愛されている作品ですが、
自分にとって「絵本」という概念を大きく変えられた一冊であり、
その後だらだらと続いている、
新たな感動を求める旅のきっかけでもありましたので、
改めましてここで紹介させていただきます。
 
この『アンジュール』は、
ガブリエル・バンサンことモニク・マルタンが、初めて描いた作品です。
文字のない鉛筆によるデッサンのみの絵本ということが、
当時は異質だったせいなのかわかりませんが、
初版は母国ベルギーで1982年、描かれて8年も経ってからだったそうです。
後から描かれた、こちらも人気シリーズの『くまのアーネストおじさん』は、
『アンジュール』よりも先に出版されていました。
 
さて、肝心のこの本ですが、
先にも書きましたが、文字のない鉛筆によるデッサンだけの絵本です。
まさに、絵を読む本ということです。
それだけでも大した衝撃であったのですが、
その一枚一枚から受ける感動はさらに大きいものでした。
絵だけによる静謐さとプリミティヴさが、
読手のなかにある想像力を引き出し鷲掴みにして、
無駄のない線描による犬の姿態と表情や遠景は、
読後にはきっと豊潤な彩りをもって心に残ることでしょう。
さらに、あえて書かせてもらえれば、
これは大人のための...
かつて子供だった人のための絵本であるような気がします。
僕の好きな言葉に、
「人間は憶い出すために生きている」という、
誰ともなく様々な本で出逢う一行があるのですが、
この作品でも、どこか捨てられた犬の物語を通して、
過去の似た様な行いや過ちに対して後々密かに悔やんだ気持を、
フラッシュバックさせられるような気がします。
だからこそ、胸が痛み涙が溢れてくるのではないかとも。
でもまぁこれは私的な感傷に過ぎないのかもしれませんが... (笑)
しかし、文章がないことで、(ラストにしても)想起させられる印象は、
読手の数だけあるといっても過言ではないかもしれません。
 
未読の方にはぜひ手に取ってもらいたいので、
あえて細かい内容は省かせていただきますが、
大げさに書けば、魔法の様な一冊です。
少なくとも自分にとっては。
このような私情にまみれた駄文からでも興味を抱かれた方は、
絵本棚のある大型書店なら大体は置いてあると想いますので、
ぜひぜひ手に取ってみてください。
 
他にも『たまご‐L’OEUF (ガブリエル・バンザンのえほん)』等、同様のデッサン絵本や、
『くまのアーネストおじさん』シリーズを始めとした、
淡彩画の美しい絵本も多く発表されています。
 
残念ながら、ガブリエル・バンサンは、
2000年9月24日に癌のため亡くなりました。享年72歳でした。
それでも彼女の残したたくさんの絵本はこれからも必ず読み継がれてゆくことでしょう。
僕もまだ読んでいない作品がたくさんあります...。
 

アンジュール―ある犬の物語

アンジュール―ある犬の物語

 
参照 :
ビーエル出版 : http://www.blg.co.jp/blp/
やまねこ翻訳クラブ : http://yamaneko.org/bookdb/author/v/gvince_j.htm
 
このバトンを誰に渡したらいいのだろうか...
実はまだ決めていません。
この後、ゆっくり(急げ!)お願いできそうな人を探しつつ、
素敵なブログに出逢えればとも想います。
 
ここからは余談です... この『アンジュール』は、
自分が新たに絵本に興味を持ち始めるきっかけになった一冊で、
出逢いはもう何年前になるのかも忘れてしまいましたが、
どこぞの書店での立ち読みだということは間違いありません(笑)
しかし立ち読みして涙を流したのはこの本だけであったと憶います。
古書チェーン店を辞めてしばらくしてから新刊書店員に就いた際にも、
絵本を取り扱いたいという気持は強く持っていて、
いつかこの本に心を込めてコメント書いて、
平積みしたいなぁと想い浮かべたこともありました。
今現在は、すっかり縁のない職場でだらだらやり過ごし、
あんな気持も枯れつつあります。
改めてこの本を読んでみると、
違う感傷が溢れてきて目頭が熱くなったりしました。
それにしても、偉そうに書いてはみたものの、
結局バンサンの絵本で手元にあるものはこの一冊だけです。
好きなものは後に残しておきたい性格だからといっても、
やっぱりちょっと寄道しすぎてしまったなぁ。
http://d.hatena.ne.jp/RONSAm/20060402#p3