本日も週刊誌が入っただけと、
昨年末の注文分が数箱あっただけで、
午後の荷物は無く客の出足もまだまだだった。
 
昼に某銀行のキャッシュカードの拾得届けがあり、
暇な時間もあったので直接銀行に届け出ることにした。
そのキャッシュカードには、

拾われた場合には、直ちに某銀行までご連絡ください...

などと書かれているのに電話番号の記載はなく、困ったものだった。
しかし、
勤務中に不慣れな道を歩いてゆけるなんて、
お気楽にも散歩気分で心地好かった。
大通り沿いに歩いてゆきながら、
脇道をなにか素敵な店はないかと覗いてみたり、
草臥れた家々の壁を眺めたりしながら、
まるで、日々腐敗し鈍くなってゆく思考回路を野放しにしてその経路を顧みるかのように、
仕事も程よく忘れてとぼとぼ歩いてゆく。
これこそ自分が今一番したいことなのかもしれない...、
このままどこか取返しのつかない処へと、
誰も知ることはないが密かに自分の様な者を待ってくれている処まで
辿り着かないだろうかなんて過ったりもした。
しかし、
それを追うようにしてそんなことはできるはずがない人間なのだと、
すっかり醒めて、かなり歩いたはずなのに目的の某銀行も見当たらないことに気づいた。
さらに悪いことに、以前、こちらの店舗は閉鎖したとかいうような話を
耳にした記憶までもが浮び上がってきて、嫌な風に頭まで熱くなった。
大通りの向かい側に渡って来た道を反対方向へ歩いてゆくと、
案の定、店舗閉鎖告知らしき貼紙のある建物があった。
しょうがないから、店を境にここからちょうど90度開いた分くらいの位置にあるであろう、
もう一方の店舗へ向かうことにした。
まただらだらちらちら歩いていると、悪びれた意識も消え失せてゆく。
途中、『純喫茶 ライラック』という、
どこか周りの喧噪からは取り残されたような佇まいの店があり、
想わず厚いガラス越しに中を覗いてみると、客は独りで店内は少し雑然としていた。
普通の喫茶店。なにが普通なのかは知らないけれど。そんな印象。
混みすぎず空き過ぎず煩過ぎず静か過ぎず...贅沢だけどそんな店だったらいいなぁ。
幾つか面白そうな定食屋もあって、少し遠いけどこちらまで来てもいいかなぁなどとも想った。
ここらへんだろうと、脇道から大通りへ出てしばらくすると、
目的の大きな看板を見つけて一息つけるかと想いきや、そこはATMだけであった...。
早足で一度店に戻って、事情を説明したら、
もうひとつあるからと道を教えられて、また歩く。
ここまで来ると、まさかこんなに歩くことになろうとは...なんて、
愚痴めいた気分になってしまった。
時間も時間で、15時を過ぎるかどうかくらいだったので、
見慣れた道を早足で大通りに出て向かった先の某銀行の窓口では、
「申し訳ございませんが、当銀行内で拾得した物に限ってはこちらで処理させていただきますが、
 外となりますとすべて警察へのお届けでお願いしておりますので...」と説明されて、
呆れた。
"怒り"という感情がいつからか曖昧で淡白になり、
自分でどう受けとめ処理していいのかわからなくなってしまったために、
それらしき感情は殆ど埋めてしまうようになって久しいけれど、
これは紛うことなく今年の初憤慨であった。
結局、そのまままっすぐ来た道を戻るのもつまらないので、
外れない程度に知らない道を小さな感動求めてとぼとぼ歩き、
店の近くの交番へ届けて事情を説明すれば苦笑と共に労われて、
本来の目的からは随分と遠いひねくれた一仕事となってしまったけれど、
これはこれで散歩の楽しみというものを感じられたので、
好かったような気でいる。