ガセネタ / Sooner or Later

Sooner or Later
いつのまにか、気が塞ぐと聴くようになったキツケクスリ。
こんなふうになりたくないしなれるわけないと覚める。
何度聴いてみても馴染むことはない。
後に残る違和感は違和感のまま。
ただ、その違和感に飽きることがない。
Sooner or Later
しかも、変に想い入れがあるからなおさら悪い。
今では考えられない話だけれど、僕は小学生の中学年の頃まで、
クラスに一人は見かけただろう給食を食べるのが遅くて、
皆から白い目をむけられ、疎まれるような子どもだった。
Sooner or Later
その日も、紙パックの牛乳が飲みきれずにいて、
でも残さず飲むようにという先生の言いつけを破れぬまま、
皆は片づけ始める中を、独りだらだらと座り固まり続けていた。
そして、なぜそのような大掛かりな行動を想い着いたかはいざ知らず、
その苦しみから逃れるべく、僕は「トイレに行ってきます」と、
その牛乳パックを隠し持って教室を飛び出たのだった。
Sooner or Later
今憶えば、もっと器用なやり方があったろうに...と、
情けなくもなるけれど、その時は必死でそれしか想い着かなかったのだろう。
別棟にある体育館まで駆けて行き、その中の地下へ潜り込み、
用具室の役割を兼ねた通路の奥の暗がりへと向かって、
牛乳パックをおもいきって投げつけた。
Sooner or Later
罪悪感と爽快感が混じりあった気まずさのまま外へ出たその時、
体育館の横の鬱蒼と茂った樹々の奥から、
なにかが聴こえたような気がした。
ずっと遠くに感じていたお囃子のような音は、
とぼとぼ歩いている間にものすごい近くに聴こえるから、
ハッとして振り返ると、もう過ぎ去っていた。
僕はなんだか恐ろしくなって、また教室へ駆け戻って行った。
憶えば、その時もうすでにガセネタを聴いていたのだった。
Sooner or Later  
本人達は忌み嫌っていたようだが、
録音時期が'70年代後半だったこともあって、
日本の"PUNK"の伝説的存在とされることが多い。
そもそもパンクってなんだろう?って話になってしまうから、
うだうだ書くのはやめにして、
とにかく聴いてみてください。
これを凄い!と感じたのなら、
おめでとうございます...ってことで。
音が悪くないとわからないこともあるんだ。
Sooner or Later
 
以下、大里俊晴ガセネタの荒野』(洋泉社刊)より抜粋。
「浜野のギターは、本物の魔術だった。
 (中略)
 驚くべき複雑な音塊が、しかし切り立ったエッジの
 煌めく明瞭さをもって彼の手から飛び出し、
 一瞬ごとに彼方に飛び去った。その恐るべきスピード。」
「彼のギターはガラスが砕けるような音を捲き散らして疾走した。
 (中略)
 それは透明に輝きながら、恐るべき速さであらゆる方向に四散し、
 虚空を切り裂いては無の中に消えて行った。」
「彼は、歌ならぬ歌を、機関銃のような早口で喚き散らしながら、
 全身を震わせ、手足をばたつかせ、もんどり打って倒れ、その場で痙攣した。」
「パフォーマンスにおいて、彼は何一つ作り上げることをしなかった。
 そうではなくて、ただ晒す。晒す。
 その幼児性を。その醜い身体を。その弱さを。
 それは、目を背けたくなるような行為だった。」
「浜野が"速度"だとすると、山崎は"過剰"だ。
 もちろん、速度の中に過剰はある。過剰の中に速度はある。
 いや、そこにしかない。」
「でも、これだけは忘れない。その時浜野が言ったこの言葉だけは。
 『削ぎ落とすんだよ。削ぎ落として、削ぎ落として、
  残った骨だけがぼおっと光っていればそれでいいんだ』
 (中略)
 覚えていて欲しい。これが僕が本当に書きたかったことだ。
 これだけが僕が書くべきことだった。
 これさえ本当にわかってくれれば、僕の文章は、ここから先、
 読んで貰わなくても構わない。」
 

Sooner or Later

Sooner or Later

PSF Records