脳が悲鳴をあげたのだろうか...。
僅かばかりの残業を終えて、
帰路、門前仲町のBOへ寄った。
この店の品揃えはいつ来ても、乏しい購買意欲を燃上がらせる。
しかしながら、特に店員がセレクトしている訳でもないので、
此処へ処分しに来る見知らぬ客に感謝すべきだろうか。
金を出してお下がりを頂く...ようで、何とも妙だけれど、
一生の宝物にまで昇華する場合もあるのだから、
これはこれで良しとする...というか、どうでもいい。
この日もいつものように本棚を隅々まで嘗めまわし、
すでに顔見知りではあるが、一線を越えぬ関係でおこうと
お互いに認めあっている店員に想わず苦笑いをされるほどにまで
長居をして、ようやく諦めもついて帰ろうかと絵本棚を覗けば、
そこでまた心の内で感嘆符、立ち止まりしばし見入ろうかとした
その時、
二度、
頭の内の右側で今まで受けたことない激痛が走った。
文字通り眼前がまっしろになり、手をついて踞る。
その余波か、右目の右隅の奥側と同じく奥歯に痛みが残る。
常日頃、慢性的な立ち眩みや頭痛には慣れていたし、
つきあってゆくしかないのだろうと腹を括っていたけれど、
これにはまいった...。
赤羽末吉版『セロ弾きのゴーシュ』、『おだんごぱん―ロシアの昔話 (日本傑作絵本シリーズ)』など、
ゆっくり眺めて帰りたかったが、
またの出逢いを願って、文庫二冊と単行本一冊を購入して出る。
その帰路の不安といったら、
肌に凍みる冷気や時折吹きつける風がいちいち、
気に障り胸を痛める。
いやだいやだいやだ...。なんだというのだろう。
脳からの警告か、主の知らぬところで起きた単なる気まぐれか。
まずは、家へ着くまでに何事もなければ...とそわそわしながら歩く。
ほぼ満員電車の人いきれも冷気ばかりの外よりはマシであったし、
項垂れながら何も考えないように音楽へ意識を埋没させて浸る。
駅を降りて、歩く。
誰も座らぬ屋台、
月夜のでんしんばしら、
重なる独りの影、
捨てられた自転車、
敬礼をするニット帽の少年、
マンション建設反対の貼り紙、
廃墟、
報せのない傷んだ町の掲示板、
閉まりかけた呑み処、
枝のない木々、
遠くの階段の灯、
On The Street Corner,
目から映るすべてがすべて、
ぼんやりとした暗礁に向かってそこに在るようで、
どうにも居たたまれない。
もうすぐ家だ。
歩みを速めて、ドアを開けて、バッグを降ろし一息つく。
こんな寒々しい雑然とした部屋でも落ち着く。
その後、奥に隠れた不安に怯えながらも、
風呂に入り、その日の汚れを落とす。
悪いものすべて落ちてしまえばいいのにと、
嫌な記憶もすべて消えてしまえばいいのにと、
風呂の中ではなぜか意識が冴える。
深呼吸を繰り返し、空っぽになあれと。
コンビニで何とはなしに選んだ晩飯をつまんで、
早々に床に就く。すぐに眠ったと憶う。
 
   "そうさ つらい時も 顔を空に向けろ
    忘れた夢が 見えるよ
    自由なけものみたいに 走ろうぜ"
          「誰よりも遠くへ」ハウス世界名作劇場トム・ソーヤーの冒険*1より。
 
からだをおもいっきりたのしくうごかして、
からだじゅうここちよいつかれにつつまれて、
いつまでもねむっていたい。